視覚について理解する

パーフェクトなレンズ設計に隠されている秘密

豊富な経験、数学、そしてメガネ装用者のニーズを正確に把握することが、テーラーメイドのメガネを生み出す秘訣です

2020年 10月 16日
  • パーフェクトなレンズ設計に隠されている秘密

どのようにお考えですか?より多くの光学上のノウハウが搭載されているのは、どちらの製品でしょうか。メガネレンズ、それとも5種類の特殊性能を搭載した近代的な高級カメラレンズ?多くの人は、カメラレンズのほうが優れている、と即答することでしょう。薄くて、平凡なプラスチックのレンズに必要な光学的なノウハウなんて、たいしたことないだろう、と。メガネレンズに隠されている秘密は、その設計にあります。カメラレンズは、光学上対称的に作られ、常に同じ形に繰り返し量産されます。これは、左右非対象が常識であるメガネレンズでは、とても珍しいことです。メガネのレンズの形は非常に複雑で、ひとつひとつがユニークな形をしています。メガネレンズの性能は、非常に複雑な多くの光学的な表面構造を反映させた結果によって生み出されます。それはどうしてでしょうか。BETTER VISIONは、数学者、そしてZEISS Vision Careオプティカル・デザインのヘッド、ゲアハート・ケルヒ氏に質問しました。  

BETTER VISION:ケルヒさん、眼科の専門家は、常によりよいレンズ設計を開発しようとしています。これは、どうしてこれほど重要なことなのでしょうか?メガネ装用者に、本当のメリットはあるのでしょうか?

ゲアハート・ケルヒ:メガネレンズの最優先課題は、例えば近視や遠視といった視覚の不備を矯正することです。また、乱視や加齢と共に近くのものが見えにくくなる老眼といった他の視力障害の負担を軽減することができます。レンズが最低限果たさなくてはならない性能は、「まっすぐ前を向いたとき」に再びすべてが鮮明に見えるようにすることです。だからといって、視力が完璧な人と同じようにものが見えるようになるとは限りません。ZEISSが百年以上も前から取り組んできたのは、このチャレンジです。私たちの目標は、メガネ装用者にまっすぐ向いたときだけでなく、すべての方向を向いても、鮮明で自然な視野を供給することです。

レンズの奥で、私たちの目は動きます。そして、この目の動きは、人によって違いがあり、すべてのフレームは、顔によって位置が違います。例えば傾斜角度が違うのです。そして、ここに近代的なメガネレンズの設計が関与するのです。

近代的なレンズは、このような要素をすべて考慮した上で、ひとつひとつ設計されます。度の入ったレンズは、レンズの上部やサイドでは、まっすぐ前を向いたときと違う光学的な修正力があります。最適な設計によって、レンズの上部と端の部分でも、可能な限りすぐれた視力矯正力が得られるようにしなくてはなりません。装用者の処方箋に合わせ、またかけ心地やフレームの形容に適応したものでなくてはなりません。

レンズの奥で、私たちの目は動きます。そして、この目の動きは、人によって違いがあり、すべてのフレームは、顔によって位置が違います。

ゲアハート・ケルヒ氏 オプティカル・デザイン・ヘッドで数学者のゲアハート・ケルヒ氏

BETTER VISION:レンズのつくり方が、すべての秘訣、ということでしょうか?

ゲアハート・ケルヒ:  そうですね、私たちZEISSは、メガネ装用者の生活様式の変化に対応しながら、当社のレンズ設計を常に改善すべく、多額の投資をしています。メガネレンズの分野にかかわらず、私たちの光学分野における長年の経験が、私たちの仕事の理想的な基盤となっています。私たちの製品は、眼の初期検査を行うための測定システムから、レンズ製造および表面加工まで、すべてのプロセスをカバーしています。私たちが使っているシステムの大半は、自分たちで開発した製品、機器、技術およびソフトウェアです。プロセスのすべてのステージを相互に正確に、そして精密にマッチさせています。ZEISSでは、偶然に任せることはありません。市場には、すべて試し、また検査された製品および技術しか出しません。

新しいレンズ設計を開発するとき、例えば最新の  ZEISS Digital Lensesなどでも、私たちは新しい設計が達成すべき要件する正確に分析することから始めます。そして装用者のテスト装用を非常に早い段階で行います。どんな洒落たデザインでも、日常生活で使用できなければ、全く意味がありません。

BETTER VISION:このようなトライアルのテスト装用者はどうやって選んでいますか?

ゲアハート・ケルヒ:  もちろん製品によって違います。遠近両用レンズでは、既に近いものが見えにくくなっている方、あるいは既に遠近両用メガネをかけている40歳以上の装用者を選びました。別のケースでは、横断的な方々を選びます。例えば、度数の高い人や低い人、年齢や性別の異なる人々、異なる顔の形の人・・・世界的に事業展開しているので、地域によって考慮されなくてはならない点も違います。顔の形、目の位置、またメガネフレームを選ぶときの趣味の違いなど。これらすべてが設計の初期段階ですべて考慮されていなくてなりません。また、標準的な検査方法はアンケート用紙を使用します。そして、それらは、設計を最適化すること、異なる製品バージョンの中から的確なものを選定できるよう私たちをサポートしてくれます。装用者について、いろいろなことがわかればわかるほど、レンズの最終的な性能はよくなります!いうまでもなく、私たちは自分達で開発し、日々新しいデータによって進化させている最善の光学設計ソフトも必要です。

装用者について、いろいろなことがわかればわかるほど、レンズの最終的な性能はよくなります!

ゲアハート・ケルヒ氏 オプティカル・デザイン・ヘッドで数学者のゲアハート・ケルヒ氏

BETTER VISION:しかし、lすべての装用者個人に合わせて最適化されたレンズもありますね。これはどのように機能するものなのでしょうか?

ゲアハート・ケルヒ:過去には、レンズの設計と製造は球面あるいはトロイダル面のみを基本としていました。現在では、非球面および非トロイダル面を設計し、いろいろな形でレンズに組み込むことができます。まさにフリーフォームテクノロジーにより、いろいろな個人に合わせることが可能です。これは、遠近両用だけでなく、単焦点レンズでも非常に興味深い技術です。ひとつの例ですが、私たちは現在近代的なスポーツメガネでも、レンズの周辺部位でもピントがぼやけないラップフレームが製造できます。パワフルなコンピューター技術のおかげで、現在私たちは、眼鏡店から受信したデータに基づき、非常に精度の高いオーダーメイドのレンズを数秒内で設計できるようになっています。1980年代、フリーフォームのレンズ表面を設計するのに、私たちは一晩かかっていました。

今では、ドイツのアーレン工場では、毎日、毎日1万2千個のオーダーメイドの遠近両用レンズを設計しています。

BETTER VISION:これは、莫大なデータを伴っているのでしょうね。

ゲアハート・ケルヒ:  その通りです。ひとりひとりのメガネ装用者からいただく測定値は、もちろん常に個人情報の安全を保証し、ひとつひとつのレンズを製造するために非常にかかせないものです。レンズが輸送中に紛失したりあるいは装用しはじめてから壊れてしまっても、私たちは装用者のデータが手元にあるため、即座に代わりのものが作れるのです。またこれらのデータは私たちに- 例えばフレームのファッションなど -新しい流行を予想し、これらをレンズ設計や装用者のテストに反映させることができます。例えばここ三年ほど、メガネフレームは大きくなる傾向を示しています。ファッショントレンドも、私たちのレンズ設計に影響を与えます。大きなフレームでは、眼の前のレンズの位置が大きく違ってきます。それに応じて、レンズは適応しなくてはなりません。

BETTER VISION:では最後に質問させてください。数学者として、すべてのメガネ装用者へのアドバイスはありますか?

ゲアハート・ケルヒ:  私は、快適な視覚は、私たちの日常生活にとって、非常に基本的なものであり、もっと注目され重視されるべきだと確信しています。今日、素晴らしいテクノロジーが、私たちに最高の視覚快適性を可能にするソリューションを生み出すことを可能にしています。そのため、私はどなたにも、アイケアのプロによる視力検査を定期的に行うことをお勧めしています。視覚に支障があると、頭痛の原因となることがあります。正しいレンズにより、負担が軽減される可能性があります。


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